「ボーイズ」とは芸界用語で、歌謡漫談のことです。簡単に言えば「世情の諷刺や駄洒落、
パロディ、替え歌といったものを、自ら楽器を弾きながら音楽に乗せて表現するお笑い」です。

今の「ボーイズ」を代表するのは川田晴久の弟子でダイナブラザーズのメンバーだった灘康次が
率いる「灘康次とモダンカンカン」と、「…金もいらなきゃ女も入らぬうー、わたしゃも少し背が
ほしい…」で有名な「玉川カルテット」の2グループです。他に歌謡漫談ということでイメージし
やすい人たちを挙げるならば、「あーあっあ、嫌になっちゃった…」のフレーズで有名なウクレレ
漫談の牧伸二とか、「なんでーかフラメンコー」のギター漫談の堺すすむ。替え歌メドレーの嘉門
達夫、ワハハ本舗のポカスカジャンなども広い目で見れば歌謡漫談と言えるでしょう。


「ボーイズ」という言葉の語源は言うまでもなく「あきれたぼういず」です。だから「あきれたぼ
ういず」の流れを汲むお笑い、これが「ボーイズ」にとって欠かせない要素です。では欠かせない
要素とは何でしょうか?


例えば「ボーイ」という言葉。この言葉が市民権を得るのは大正末期から昭和にかけて。時代の先
端を行く若者たちをモダン・ボーイ、モダン・ガール、略して「モボ・モガ」と言ったことがきっ
かけです。今でも慶応ボーイとか言いますが、「ボーイ」という言葉には何か気品、上品、お洒落
といったイメージが付いて回ります。このイメージ、実は結構大事です。


また「ボーイズ」をやる芸人のことを、楽器を持つボードビリアンとも言う人がいます。ボードビ
ルとはフランス語で通俗的で軽妙な喜劇を指します。だからボードビリアンとは簡単に言うなら喜
劇役者となります。辞書によっては軽演劇役者と書いてありますが、この軽演劇というのは今では
死語と化してはっきりイメージできません。バンド活動するクラブを軽音楽部といいますが、この
「軽」とはクラシック音楽に対しての「軽」というニュアンスです。演劇の場合は歌舞伎を旧派と
してそれに対する新派、あるいは歌舞伎・能といった伝統演劇に対するリアリズム演劇として新劇
といった言葉はありますが、重演劇・軽演劇というニュアンスの分類はしにくいのです。


話が横道にそれましたが、軽演劇の「軽」は「笑い」「コメディ」という意味であり、だからこそ
ボードビリアンとは喜劇役者という意味で解釈して間違いないわけです。


「あきれたぼういず」の流れを汲むお笑いが少しずつ見えてきたと思います。
まず楽器が弾けるコメディアンではなく、楽器が弾けるボードビリアンでなければいけないのです。
それは単なるお笑いより上のレベルが求められるということです。分かりやすく言えば強烈な個性で
笑いを取る芸より、器用に演じ分けができる役者としての芸の方が求められるということになります。
アドリブではない、綿密な稽古と計算の上で成り立つ笑いと言ってもいいかもしれません。それは腹
を抱えてゲラゲラ笑う面白さではなく、知的でひねりの利いたインテリ層に受ける面白さです。選曲
・楽器演奏に見られる音楽性の高さ、個々の芸によって練られたコント、都会的でお洒落な雰囲気。
これらが「あきれたぼういず」の流れを汲む「ボーイズ」に欠かせない要素なのです。だから「ボー
イズ」の面白さが最もよく生きる場は歌と踊りとコントを混ぜて構成したショー、レビューであると
言えます。


ただ残念なことに、現在の「ボーイズ」はレビューではなく演芸の場でしか行われません。演芸場や
寄席の舞台には靴で上がることができませんから、「あきれたぼういず」の流れを汲む真の「ボーイ
ズ」の芸は表現できていないのが現状ではないでしょうか。しかし昭和40年に結成された東京ボー
イズ協会が、現在では ボーイズバラエティ協会となり定期的に公演を行っています。百聞は一見に
如かず、「ボーイズ」の面白さを知るには、舞台を観るのが一番でしょう。